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[対談]われらは今日も、積読を生きている◎島田潤一郎×大石トロンボ

島田潤一郎 × 大石トロンボ

読もうと思って買ったはずの本が、気づけば手つかずのうちに増殖している——そんな積読に悩み、取り組み、楽しんでいるお二人の対談です。日々の積読ライフや、傾向と対策(?)について語っていただきました。

積読、どうしてますか?

島田 ぼくは『望星』の連載で、ここ何号か積読のことを続けて書いているんですが、そもそも積読と積み本は違うんですかね?

大石 いつか読もうと思っている本を積む行為自体が積読で、積読している本を積読本とか積み本と呼ぶようです。言葉としては積読のほうが有名で、「積」と「読」の間に「ん」が入るか入らないかが問題になることもありますね。漫画好きでX(旧ツイッター)をやっている人は、積み本を使うことが多い気がします。以前はわたしも積み本と言っていましたが、いまは1般的な言い方に寄せて積読本と言っています。

島田 へえ、いろいろあるんですね。積読を意識し始めたのは、いつごろですか?

大石 興味のある対象が広がって、買う本が増えたけれども読める量が追いつかなくなったタイミングで、ここ10年くらいですね。

島田 ぼくは、ここ20年くらいは積読のことを考えている気がします。生活がうまくいかないと、その穴埋めみたいにして本を買うじゃないですか(笑)。

大石 ああ、わかります(笑)。

島田 そうやって溜まった本が1000冊くらいあって、そのほとんどが活字本です。

大石 わたしは、活字と漫画と同じくらいかな。

島田 何冊くらいあるんですか?

大石 数えたことはありませんが、リビングが積読本の置き場になってしまっているんです。これが写真で、普段は布を被せています。

島田 す、すごい。積読本に囲まれて暮らしているって感じですね。崩れてきて、生活に支障をきたしたりはしないんですか?

大石 そこは、長く培ってきたバランス感覚で積んでいますから、意外と崩れないです。

島田 大石さんのところには、幼稚園に通われているお子さんがいらっしゃいますよね。触って崩したりはしないんですか?

大石 絵本など、本人に興味のありそうな本は置いていないので、存在しないものとして扱われているというか。

島田 上の子は?

大石 小学6年生ですが、やはり無関心ですね。

島田 積読本はこれで全部ですか?

大石 押し入れが本で埋まっていますが、そこにある積読本は少ないです。積読本は基本的に、見える場所に出すようにしているので。

島田 本はすべて積んでいる?

大石 文庫用の低い本棚だけはちゃんと買ったんです。そこにはミステリ小説が詰まっていて、あとは衣装ケースに入れている分もありますね。本当に置き場所がなくて。

島田 でも、買うんですか?

大石 買うんですよね。

島田 ぼくもです。それをわれわれは、なんとかしなくてはいけない。読まずに処分するのは、ちょっと……。

大石 わたしも同じで、読まずに売るって、まったく無意味な行為じゃないですか。それが新刊だろうが古本だろうが、買ったことには必ず理由があるはずですから。

島田 なぜ買ったのかを忘れていることは、ぼくはまだないから、当時の自分を裏切らないためにも読みたいですよね。積読解消に向けて、何かやっていらっしゃることはありますか?

大石 ないですね。ありがたいことに、ここ1年くらいで漫画や文章の仕事が増えまして。それもあって、本を読む時間がかなり減っていて、読むペースが買うペースに完全に追いつかない状態です。

島田 じゃ、積読本は増えているわけですか。ぼくはいま、朝の30分と昼の30分を積読解消の時間にあてています。積読本には攻略が難しそうな本と、2、3日で読める本とがあって、いまは手ごたえのあるものからやっているので、どこか人生にハリを感じてるんですよ。

大石 すばらしいですね。わたしはいま、かなり余裕がないので、とにかく読みたい順で読むしかない。その読みたいものすら読めていない状況です。

島田 まずは読みたい本から読んで、次は少し負荷のかかるものを読んで、その後にご褒美みたいな本を読むのが、積読本解消法としてはやりやすいのかな。

大石 いいバランスですね。わたしの場合、いちばん読みたい本以外は「いまはこの本を読むべき」と天から下りてくる本を重視しがちかもしれません。積んでいる本がネットで話題になったり、誰かが褒めていたりすると、無性に読みたくなる。その運命は大事にしています。

島田 ぼくもまったく同感です。一方で、積読を解消するのに、どこからどう攻めるかはずっと意識しています。難解な本、時事ネタを扱った本などは、読むモチベーションが簡単には上がらないので、この本を読むためには、先にこの本を読んで、次にこの本、次にこの本というルートでいけば、1ヵ月後にはモチベーションが60%くらいまでは上がっているんじゃないかと考えて手順を踏んでいく。アテが外れることももちろんあって、そのときはまた迂回して、別の本を読む。そんなふうにして積読とたたかっています。

どのタイミングで読むか

大石 わたしにとって「ザ・積読本」というものが何冊かあって、今日はその中からひとつだけ持ってきました。舞城王太郎さんの『ディスコ探偵水曜日』(上・下)です。

大石さんにとっての「ザ・積読本」である『ディスコ探偵水曜日』

島田 発刊当時、すごく話題になりましたよね。あれは、いつごろでしたっけ?

大石 2008年ですね。難解だけど、その難解さが癖になるという、ある意味奇書のような本だと言われています。

島田 『ドグラ・マグラ』(夢野久作)みたいな。

大石 そうです、そうです。ちなみに、『ドグラ・マグラ』も積んでいます(笑)。舞城さんの作品はデビュー作から何冊か読んでいて、『ディスコ探偵』もその流れで買ったんですが、おもしろいとわかっているのに、読むタイミングを完全に逃してしまいました。そういう本がほかにもいっぱいあって、たとえば『三体』(劉慈欣著、大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳、立原透耶監修)も積んでいます。あれだけ話題になって、おもしろいと評判の『三体』さえ読めていないのに、いったいいつ『ディスコ探偵』にたどり着けるのか。ましてや『ドグラ・マグラ』を読めるのなんて、いつになるんだろう……。

島田 ぼくは3年くらい前に読みました。

大石 なぜ、そのタイミングで読もうと思ったんですか?

島田 3年前に、本で埋まった部屋を将来的に息子に明け渡すことになって、そのときに、読みやすい本よりもある程度骨の折れる本からやっていかないと、「おれならできる」という見通しが立たないと思ったんです。それで早起きして読むようになって、だいぶ読み終えました。『ドグラ・マグラ』もそのうちの1冊です。

大石 場合によっては『ドグラ・マグラ』を読まない人生もありえたわけですよね。でも、読んだ。

島田 読む前は「部屋にはあるのに、まだ読んでいない本」というわだかまりみたいなものがあるけど、読んだらそれがまったくなくなるから、生きるのが少し楽になった気がします(笑)。古本屋さんの均一棚で美品を見つけたときの「これが100円なのか……」という葛藤もなくなるし。しかも、ぼくの『ドグラ・マグラ』は上下で版が違って、背の色も違って、それが棚にあるのが嫌で嫌でしょうがなかった。20年くらいそんな状態だったから、読んですぐに処分しました。その快感!部屋の空気が変わりました。

大石 そんなに嫌なら読まずに処分という選択肢もあったけれども、島田さんにとっては『ドグラ・マグラ』は人生において読む本だったと。

島田 そういう人生ですよね。『ドグラ・マグラ』は表紙がえぐいので、子どものためにも処分しておかないといけないと思って。『さくらの唄』(安達哲)とかも、そうですね。あれは内容がえぐいんですが。

大石 島田さんの『さくらの唄』は、いまはわたしの家にあります。数年前の西千葉一箱古本市に島田さんが出店されていて、そのときに買ったんですよね。めちゃくちゃおもしろかったんですが、思春期に読んだらどうなるか、人格形成に与える影響が怖い本でもある。

島田 背徳的で刺激の強い積読本は、最近は読んだらすぐに処分するものがほとんどです。われわれはお互い子どもが2人の4人家族で、子どもがいるとどうしてもそういうことを考えますよね。

大石 夏葉社代表を目の前にして話すのもどうかと思いますが、夏葉社の本も積んでいるという話はアリですか?

島田 いやいや、ありがたいです。

大石 いちおう解説をさせていただくと、積んでいるのは3冊で、去年の冬に『古本屋 タンポポのあけくれ』(片岡千歳)と『神様のいる街』(吉田篤弘)を買った際、『神様のいる街』は買ったその日のうちに読み始めることができたんです。

島田 それができると、すごくうれしいですよね。「買ってすぐ読む」は理想です。

大石 そうですよね。『神様のいる街』は薄くて読みやすく、内容もすばらしくて感動しました。

島田 ありがとうございます。

大石 でも、その後に忙しくなって、『タンポポのあけくれ』は積んでしまった。別の機会に買った『漱石全集を買った日』(山本善行・清水裕也)は、途中まで読んで付箋を貼ったりもしていたのに、古本の話でおもしろいのはわかりきっているから、いつまた読み始めてもいいと思っているうちに、ほかの本に押されてしまって。でも、この機会に読み切って、万全の状態で『タンポポのあけくれ』を読みたいと思います。

島田 ぜひぜひ。うれしいです。

大石 そこからさらに、『風の便り』も……著者の小山清さんは普段は手に取らない作家ですが、古本屋のおひさまゆうびん舎さんがすごく推していて、読みたい熱はかなり高いんです。ですから、これも絶対に読みます。読みます宣言です(笑)。

積読は畑のようなもの

大石家のリビングにある積読本。普段は布を被せてあるが、ひとたび布を取ると、そこには本の山が……

島田 70歳くらいになったら、「読む本が家に1冊もないなぁ」と思いながら、おもしろそうな新刊を探したい。それが夢です。

大石 家に読む本がないって、夢ですよね。でも、いまのままでは、その状態には死んでもたどり着かない。

島田 ぼくはいま、月に10冊読んでいます。このペースだと1年間に120冊で、10年もすれば千冊の積読本はゼロという計算です。なので、新たに買わなければなんとかなる。

大石 積読本を増やさないために、本を買うのを抑制することはありますか?

島田 ないですね。最近思うんですが、積読は畑みたいなもので、そこに新しい肥料や空気という名の本を入れて時々混ぜ返してやらないと、畑が死んでしまう。ただ、その入れ方を間違えるとえらいことになって、うまくいくと積読は生き生きし始めるはずなんです。

大石 買っちゃうところに積読の極意みたいなものがある気がしますよね。だから、積読本を減らすいちばんの方法は本を買わないことだけど……。

島田 その理屈は通らないんですよ。1冊新たに入るだけで、棚の見え方が違うし、積読本が輝きだす。

大石 自分の守備範囲外だけど読んだら絶対におもしろい本は山ほどあるし、そういう本が自分の中の新たな扉を開けてくれることってありますよね。でも、「もうこれだけ積んでるし、すぐには読まないしなぁ」と思って買うのを控えてしまう。それはイコール、読書の本当の楽しみを失ってしまっているということであって、そこが悲しいというか、悩みどころで。

島田 よくわかります。だから結局、買ってますけどね(笑)。

大石 読んでいなくても、買うことで救われる。買ってさえいれば、いつか読む可能性があるわけだから。

島田 われわれは古本屋で買うことが多いですが、古本には相場があって、「これは底値だ」というのがだいたいわかるじゃないですか。ここを逃せばこの後、間違いなく値段が上がると思うと、いまのうちに買っておこうとなりますよね。

大石 積読と古本は相性がよくて、「安く見つけたから、ちょっと読んでみようかな」と買った本が、積読を豊かにすることがある。ただ、買った動機がやや邪だから、読むモチベーションがなかなか上がらなくて、長く積みがちなんですよね。

島田 それにどれだけ苦しめられているか。それは均1あるあるというか、「この名作が百円で買えるなら」と思って買った本が山ほどあります。ぼく、揃いものが安いと買っちゃうんですよ。小学校のときに読んでいた『イレブン』(原作・七三太朗、作画・高橋広)というサッカーマンガも、全43巻もあるのに3500円で状態もよかったから、買っちゃいました。

大石 長編マンガは厄介で、わたしもいくつか積んでいます。数年前には『からくりサーカス』(藤田和日郎)をコンビニコミック版で集めました。元の新書判は全43巻で、古い作品なので痛みが激しいものが多く、なかなか集める気にはならなかったんですが、コンビニコミック版だと全16巻で、それが奇跡的に全巻そろって1冊100円だったことがあって。忘れもしない、ブックオフ綾瀬駅前店です。

島田 もう読んだんですか?

大石 実は15巻で止まっていまして……。ここ数年忙しいのと、1冊が4センチくらいと分厚いので、1冊読むのにめちゃくちゃ時間がかかっているんですよね。最近は数ヵ月に一ぺん読むことの繰り返しで、これまでの話を忘れてしまっていたりもするので、なおさらです。うちの奥さんがアシストして長男も読むようになったんですが、3、4日で追い抜かれてしまいました。長編以外に、1冊完結のものや、続きが気になるものの新刊ももちろん買っていますから、積んでいる長編をこの先どう読んでいけばいいのか……。

島田 そうやって積んできた本に、どこかで本気で取り組まなくちゃいけないわけですよね。

大石 そうですね。でも、まったくノープランです。

島田 子どもに部屋を明け渡す予定は?

大石 四畳半がいちおう長男の勉強部屋みたいにはなっているんですが、半分以上は本やもので埋まった物置状態で。でも、うちの奥さんとしては、引っ越さない限りはその四畳半を子ども部屋にしてあげたいから「なんとかしなさい」と言われています。

島田 減らすとなると、かさのあるコミックからですかね。

大石 いや、まずは本以外の何かを極限まで減らして、分散している本を押入れに集約すれば、四畳半もかなり片付くと思うんです。どのみち、タイムリミットはすぐそこなので、売るか、処分するかも検討しないといけないとは思っているんですが、どこまで決断できるか……。

島田 読んだ本は、売ってもいいんじゃないですか?

大石 ただ、「子どもが読むかも」という本もあって。

島田 ぼくは、『まんが道』(藤子不二雄)、『魔太郎がくる‼』(藤子不二雄Ⓐ)、『三国志』(横山光輝)、『寄生獣』(岩明均)、『柔道部物語』(小林まこと)は、子ども用に置いています。

大石 なるほど、かなり絞っていますね。『魔太郎がくる‼』は、旧版はわりと残虐なシーンがありますけど。

島田 その旧版です。内容が内容ですし、貴重な本なので、「いつでも読めるよ」という軽い感じで渡したくはない。ですから、いまは本棚の奥の方に置いています。個人的には、藤子不二雄Ⓐ先生の『少年時代』がめちゃくちゃ好きなんですよ。あの怖さが。でも、自分が好きなものも、子どもへの影響を考えて処分したコミックがけっこうあります。それを踏まえて、積読本が山ほどあるというのがいまの状態です。

島田家の積読本。一日のうちでこの時間は本を読むと決めている島田さん。「読む本がない」という夢の状態は、果たしていつ実現されるのか?

 読むことをあきらめない

島田 ぼくも大石さんもブックオフによく行きますが、そのときは、その日に読むものを買うわけじゃないですよね。

大石 「何かないかな」という感じで、掘り出し物を見つける楽しさを味わいに行くところがあります。この数年、一箱古本市に本を出したり、そこで買ったりしているんですが、店主からおすすめされると、普段は手に取らないような本も「買っちゃおうかな」という気になりますよね。ブックオフでも衝動買いはしますが、それとは少し違って。ブックオフではいくら100円とはいえ本当に必要かを時間をかけて考えることができるけど、一箱古本市でそんなふうに迷っていたらかっこ悪いから、ついノリで買ってしまう。

島田 店主が感じのいい人だとなおさらで、一箱古本市はそれが楽しいんですけどね。

大石 おすすめされて、勢いで買った本が新たな扉を開いてくれることもありますが、たいていは積んでしまって。

島田 そういう本って、積読本の中でもちょっと浮きませんか?自分色に染まっていないというか。

大石 それはそれで、醍醐味ですけどね。

島田 醍醐味だし、攻めたくなります。

大石 ただ、勢いで買った本なので、読むきっかけがつかみにくいところがある。積読本の中でも優先順位が高いものと低いものとがありますが、こういう本は1軍にはいかない。だからこそ、攻略できたときには気持ちがいい。

島田 ぼくはよく、歯みがきしながら積読本を見て、攻略法を考えます。

大石 わたしは、飯を食べながらリビングで。

島田 あれは、無造作に積んでいるでしょ。

大石 いや、無造作じゃないですよ。上のほうの3、4冊が一軍で、日によって内容も違います。一軍は、特にムックとか雑誌が厄介で、どちらかというとコレクション目的で買っているので、所持した時点で8割がた満足して、気になる特集だけパラパラ読んで積んでしまうんです。

島田 ずっと探していた本ほど、読まないですよね。

大石 途中から、見つけることが目的になっちゃうから。

島田 ムックや雑誌は、ぼくも見つけることが目的になりがちです。

大石 雑誌は、置き場所に苦労します。本棚に並べると、何がなんだかわからなくなるじゃないですか。

島田 背がないから。

大石 それで、プラスチックのラックに入れたり、段ボールの中に入れたり、単行本とは違った場所に置きがちなんですよね。リビングだと、テレビ台の横の隙間に差し込んだり。そうこうするうちに行方不明になってしまう。

島田 雑誌は必要なところだけスクラップすればいいという人もいますけど、そういうことじゃないんですよね。同じものを買っちゃうことはないですか?

大石 それは、なかなかないですね。

島田 ぼくも、あまりないです。

大石 巻数が多くてまだ揃っていないものは、何巻まで買ってあるかすべてメモしています。

島田 ぼくは写真を撮っています。ある物書きの部屋には本当になにもなくて、あるのは聖書1冊だけ──本当はああいうのに、すごく憧れます。小さい本棚に本が10冊だけあるとか。

大石 いまある本に執着がなければ、割り切って処分して、そういうやり方もできるかもしれない。島田さんはできそうじゃないですか?

島田 いまは、まだそういう感じではないですね。いまだにブックオフに行くと「美品だな」「揃いだな」という誘惑にかられますし。大石さんは、コレクター気質はありますか?

大石 ややありますね。

島田 ハードカバーの限定ものの『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)とか、迷いませんでしたか?

大石 『100年ドラえもん』(『ドラえもん』全45巻・豪華愛蔵版セット)ですね。あれは予算の問題もあるし、コレクターズアイテムとして美品のまま持ち続けるか、どんどん子どもに読ませるか、そのへんも折り合いませんでした。『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)は1年くらいかけて、その時出ていた32巻すべてを集めたんです。美品ばかりを、1冊100円で。最終的には子どもに読ませて、ボロボロになっちゃったんですけど。

島田 でも、美品を揃えるのは喜びですよ。『ONE PIECE』(尾田栄1郎)とかは、どうですか?

大石 100巻以上ありますし、この積読の状態で『ONE PIECE』まで買ったら、狂気の沙汰です(笑)。いまはとにかく、減らしていかないと。

島田 積読している人はみんな、どこかであきらめるんだと思うんです。年とともに、集中力はなくなるし、目も記憶力も悪くなるし……ぼくはでも、もうちょっとがんばって、ゼロになるまではたたかっていきたいなと思っています。

大石 最近は、積読は積んでいる状態がすでに読書で、読めなくたっていいんだという考え方もありますけど。

島田 ぼくは違うと思っています。

大石 わたしも、積読の本来の目的は読むことで、そこをあきらめてしまったらいけないと思います。

読書家の夢を小さくかなえる方法

島田 最近、週に1回、埼玉に行っているんですが、それも積読を解消するために行っているようなところがあって。

大石 ああ、電車の中で読書を?

島田 ヘタすると往復で4時間くらいかかるので、けっこう読めるんです。本を読むのに、電車はいいですよね。

大石 電車の中とか、病院とか。

島田 大学病院の待合室なんて、最高です。

大石 診察までの1時間、2時間待ちも、むしろうれしい。

島田 以前、誰とだったかな? 仮の病院の待合室で本が読みたいという話になったんです。誰かが読書のためのそういう待合室をつくってくれたら、ぼくは利用するかもしれない。永遠に名前を呼ばれることのない待合室(笑)。ただ、本を楽しむということではなく、積読を解消するとなると、ある程度ルーティンにしないとなかなか厳しいと思います。1日のうちでこの時間は本を読むと決めることで手ごたえは感じていますが、古本屋に行くと、どうしても買ってしまう。でも、うちの奥さんは書店員で、積読する人でもあるので、すごく理解があるし、なんなら彼女のほうが積んでいるんじゃないかというくらいで。

大石 わたしが積読をするのも、いちおう奥さんの理解があってのことです。ただ、度が過ぎると「積んでいる本を読め。読まないなら売れ」と言われます。

 奥さんは最近、シルバニアファミリーという趣味が出来たんです。で、シルバニアの中古を探しにブックオフに行くことが増えて、本人はそれを「シルバニアリサイクルパトロール」と呼んでいるんですが、パトロールで見つけた人形の巨大な家とかを、ちょこちょこ買ってくるんですよ。そうやって、奥さんがシルバニアを積むようになったことで、積読にちょっとだけ寛大になった面はあります。シルバニアの家がリビングにも3個くらい置いてあって、新しいのを買うたびに古いものと入れ替えている。あれは、わたしの一軍の本と同じです。

島田 1軍は、優先順位が高い本なんですよね。

大石 そうですね。「これは絶対に間違いない」という本ばかりです。

島田 そういう本でも、積んじゃうのはなぜなんですかね。

大石 そう、それなんですよ。昔はそういう本は積んでいなかったはずなのに、いつのまにか増殖している。

島田 わかります。一緒です。

大石 「間違いない本」のはずの一軍を100冊くらいは積んでいるのが現状です。そんな状態で二軍の本を読めるわけがなくて、二軍を読むのはいつになるんだろうと思うと、本当に果てしない。

島田 ぼくはずっと、2軍の本ばかり読んでいますよ。二軍のほうが読むハードルが高くて、そういう本こそ減らしたいから。

大石 一軍は問答無用でおもしろいのがわかっているけど、ひょっとしたらおもしろいかもしれないという可能性が2軍のいいところでもあるというか。

島田 好きな作家の本が、読んでみたら2軍だったってこともありますけどね。

大石 読まずに手放してしまうと、そういうことにも気づけないじゃないですか。そう考えたら、お金を払って買ったものを読まずに売るなんてことは、やっぱりできない。

島田 ぼくも、どんなことがあっても読みますよ。読む本がないから本屋に行くという夢をかなえるためなら、どんなことでもやります。旅行に行くときはこれと決めた本を1冊だけ持っていくんですが、思いのほか早く読み終えることがあって、そのときは「読む本がないから本屋に行く」ができるんですよ。あれは、すばらしい。桃源郷。

大石 プチ「夢がかなう」ですね。わたしの場合、旅行のときは、本命の1冊と、本命がはまらなかったときの保険の1冊と、箸休め的な1冊をそれぞれ持っていくので、だいたい読み切れないんですが、1冊だけ持って行って読み切れば、その瞬間だけは「読む本がない」という夢がかなったような気分が味わえる。

島田 しかも地方だと、駅のキオスクみたいなところからしか本を選べないというのも、いいんです。

大石 すばらしい。これは流行るかもしれない。

島田 どこで流行るんですか(笑)。

大石 いやだって、読む本がない状態で本を買うなんて読書家の夢じゃないですか。このプレイは、絶対流行ります。

島田 いや、流行らないですよ(笑)。

島田潤一郎

しまだ・じゅんいちろう 1976年高知生まれ、東京育ち。日本大学卒業後、派遣社員やアルバイトをしながら放浪。2002年に出版社「夏葉社」起業する。『長い読書』(みすず書房)、『電車のなかで本を読む』(青春出版社)など著作多数。

大石トロンボ

1978年静岡県生まれ。漫画家。会社勤めの傍ら、主に本にまつわる漫画をSNS等で発信。著書に『新古書ファイター真吾』(皓星社)、共著に『ブックオフ大学ぶらぶら学部』(夏葉社)がある。

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1978年静岡県生まれ。漫画家。会社勤めの傍ら、主に本にまつわる漫画をSNS等で発信。著書に『新古書ファイター真吾』(皓星社)、共著に『ブックオフ大学ぶらぶら学部』(夏葉社)がある。

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