今月の詩——いのり
永方佑樹
灯火のふちがふるえ
川面にひだをつくってゆく
もう良いかい
まだだよ
こらえながらうずくまっている
かたわらを駆けてゆく
影だけが脱ぎすてられてゆく
……every year …felt like a new war is gonna be
waged against us ……
…Hi Yuki dear……I don’t know how safe me
and my family are, or anyone in……
言葉を
もてあましながらもてあそんでいる
競い合う修辞のたしなみを
スマホに並ぶアルファベットの
耐えがたい過酷が打ちすえて
ひるむ子音をすすり
口を開く
順を立ててめくれてゆく
私のイロハは
くちびるをかたく
こごえさせてゆく
母語はいつもつめたい
うすら氷の肌を嚙むたび
パリパリと音を立て
私の内側はひたすらいたみ
ひたすらうるおってゆく
「冬が終わったことに意味などないよ
またどうせ冬になるんだから」
疲れた腕を上げ
スマホをかざす
はがれ落ちてゆく季節をせめてもと
画角の静止に受け留める
一日を終える肩先に
くたってゆく花びらが梵字をえがき
声が聞こえた気がした
何も救えは、しないのだろうか
嘆きばかりをかぎつける
憂いは腕をはためかせ
いのりを靴底に踏みつけてゆく
永方佑樹
ながえ・ゆうき 詩人。2012年「詩と思想」新人賞、19年詩集『不在都市』で歴程新鋭賞受賞。文章としての詩作のみならず、自然物やテクノロジーを使用した「立体詩」を国内外で展開している。名古屋芸術大学非常勤講師。
パレスチナとイスラエル。それぞれにいる友人たちより送られてくる言葉の前で、私の詩は直立していられるのだろうか。そんなことを最近は考えている。